木漏れ日

僕と彼氏の日常雑記。

緊急入院とその後

人間ドックの結果の封書が届いた。

検査当日に指摘のあった腎臓の値については、既に異常なし。精密検査を終えている。あとはもう何もないだろう。緊急性の高いものなら連絡がきたはず。きっと大丈夫だ。そんな思いで封書をあけた。

ところが…「肺に腫瘍の疑いあり」要精密検査の文字があった。マジで?肺がん?転移してる?5年後の生存率は50%??思考は悪い方に向いていく。紹介状を書いてもらい病院に電話をするが、予約は10日以上も先になった。待つだけというのは苦しい時間だ。何をしてもふと嫌な考えが頭をよぎる。どこにも出かけたくないし、誰とも会いたくない。仕事もおぼつかない。自分をごまかしながらようやく検診日を迎えた。

診断の結果、腫瘍を摘出しないと判断できないとのこと。翌日から緊急入院することになった。「簡単な手術だ」お医者さんは話すが、入院も手術も一度も経験がない。全身麻酔をして、身体に3か所穴をあけ、胸に管を通す。手術後はトイレも自分でいけない、麻酔が切れれば痛みも続くし、後日抜糸もある。それだけの手術をしても腫瘍が良性とは限らない。もしも癌だったら、さらなる検査や手術が待っている。

会社に入院の旨を連絡すると、身体を第一にと管理職が言葉をかけてくれた。家族や彼氏にも連絡する。面会はコロナのため不可。絶望の中、淡々と入院準備を進めた。結果がわかるのは2週間後。この苦しみがまだまだ続く。結果が悪ければもっと長く…

「健康でいたい」他の悩みが小さく思えた。やりがいのある仕事をしたい。夢中になれる趣味がほしい。資産を増やしたい。もっとたくさんの人に尊敬されチヤホヤされたい。そんな欲求も全てどうでもよくなった。

看護師さん、薬剤師さん、事務さん、お医者さん、みんな親切だった。不安に寄り添ってくれて、手続きも迅速に無理も通してくれた。病室で横になり、アニメをみて気を紛らわせる。本当にこれでよかったのだろうか。セカンドオピニオンを取るべきだったか。今からでも拒否はできる。何がベストなのだろう。

色々な考えが頭を巡るが、そのうち何も考えないようにした。明日は手術だ。

 

手術の前日。それは夕方の16時くらいだっただろうか。主治医の先生に呼ばれた。まずは、紹介元の人間ドックの診断画像やMRIから。次に、今日撮ったCT画像の説明を受ける。

そして、まさかの診断が…「腫瘍が全くないです」と。呼吸器系もその他の検査数値も異常がない。他の専門職の方とも協議した結果、「腫瘍はないという判断をしました」と。

「本当ですか?」僕の中で、いろんな緊張がとけていく。アーティファクトという画像のエラーが一定数起こるらしい。心臓の鼓動や心膜の動きが腫瘍のように映ってしまった可能性があると。色々と説明してくれたが、半分しか頭に入ってこない。とにかくホッとして、よかったという思いが駆け巡った。

「それでは今日このまま帰れるんですか??」「はい、退院してください」手術の不安や今後の寿命まで考えていた。安心安堵の夢見心地だった。今日からまた健康に生きられる。まだまだ生きられる。病室に戻って荷物をまとめた。隣ではおじいさんが管に繋がれて眠っている。ああ、僕も明日こうなる予定だったんだよな。

健康以外は何もいらないと願ったので、今日から起こる良いことは全てラッキーだと思うことにした。美味しいご飯も楽しい時間も。人間ドックの受診日から約1か月。腎臓から肺まで、恐怖と不安の日々だった。あの暗闇を忘れてはいけない。一連の検査費用~入院代は約7万円。正直まだ心のどこかに不安は残っている。本当に腫瘍はなかったの?ってね。心気症という病気もあるらしい。

幸いなことに、自分は今落ち着いている。これまでの悩みが小さくなり、雲間から光がさすように、さりげない毎日が輝き、日常への感謝が溢れている。あれだけ嫌いだった料理も、健康に留意し時間をかけるようになった。翌日の仕事に向かう足取りはいつになく軽く、春の風が前へ前へと背中を押す。休みの日は庭園を散歩するだけで幸せを感じるようになった。

もう一度人生を授かったと思って、今度は本当に自分の好きなこと、大切なものを考えて生きていきたい。